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東方海泡城 ~ Precious Sphere./東方辰宮城 ~ Captive Chain in the Past.

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海泡城の過去話、です。設定文で補えきれなかった、それぞれの心境なんかを、深海の如くにどんぞこな物語と共にどうぞ。(※まだ前半部分のみですが)
 それは、海深く沈む城で起きた昔の話。
 檻に最後の鍵を掛けたのは、歯車達の些細な我儘だった。
 一切の光も受け付けない、冷え切った闇に包まれた海底。
 ある城が、其処に聳え立っていた。
 贅を尽くした装飾に彩られた絢爛豪華なその城は、しかし陸に住む者の誰の目にも触れることは無い。
 「……」
 城の番を任されていた泡守乙奈は、廊下の窓から景色を眺めていた。
 窓から漏れる城内の光が深海の暗闇に筋となって射し込み、気ままに泳ぐ魚達の姿を照らし出す。
 辺りの漆黒にぼんやりと縁取りされた空間の中で、鱗に反射する光が散りばめられては消えていく、幻想的で、されどとうの昔に見慣れた光景を、彼女はその碧色の瞳でじっと見つめていた。
 「乙奈様。」
 「あら……どうしたの海波?」
 呼び掛けられ振り向いた先には、人間で言えば十代半ばといった少女が立っていた。
 「そんなに真剣に覗き込まれてどうしたんです?もしかして、船でも沈んできました?」
 佐比持海波はその上司の思い詰めた様子にも、冗談めかした風に問い掛ける。
 「まさか、そんな物が沈んできたら大変だわ。」
 しかしそんな軽口にも、乙奈はくすりと笑って答えた。
 彼女は部下に対しても普通は敬語で接するが、海波と二人きりで話す時は別である。
 今でこそ彼女の部下の一人であるが、その生まれた時から今まで、海波を育ててきたのは他でもない乙奈だ。
 ゆえにこの少女は部下の誰よりも乙奈と近しい関係にあり、お互いの気心の知れた仲であった。
 だから、海波は彼女が城の外を眺め続ける理由を本当は分かっていた。
 「……今日は、帰って来ていませんか。」
 「ええ、“今日も”帰って来なかったわね。」
 城主はしばしば城を空けて地上に抜け出し、その期間も決して短いものではない。早くても一ヶ月で、半年以上姿を見せないこともある。
 それでも乙奈は、毎日こうして窓を眺めて待っていた。
 城主の帰りにいち早く気付き、出迎えられる様に。
 「きっと……すぐにまた戻って来ますよ。」
 気休めでしかない、「きっと」。
 「そうね……。」
 一言そう呟くも、彼女の視線は窓の向こうに注がれていた。
 「……………」
 静寂が、二人の息を詰まらせる。
 「……私が、間違えたのかしら。」
 ようやく零れ落ちたのは、弱弱しげな言葉。
 「城主様……ううん、瀧が……何を求めているのか分からないの。」
 名を辰宮瀧と言う城主は、まだほんの幼い娘であった。
 生まれた時に、右の角が欠けていた事から欠陥品と見なされた、竜の落とし子。
 しかしその命を絶つ事を躊躇われる尊い血筋ゆえに、一族は海底に城を築き、そこに彼女を託した。
 そして一族がその教育係にと任命したのが、長命の霊亀であった乙奈だった。その彼女でさえも今は、城主の心を読みあぐねていた。
 「あの子がこの前帰ってきた時に、何て言ったか知ってる?」
 「……」
 「嬉しそうに言うのよ。『空のずっと上にはもっと素晴らしい世界があって、そこに行けば皆幸せになれる』って。」
 瀧は地上に出るうちに人間の世界で広まっていた仏教を知り、信仰する様になっていた。
 教義の細部を知らない乙奈達にこそ子供に教える様な表現で語っていたが、その実、彼女は敬虔な信徒であった。
 幼くありながらも彼女は非常に聡明に育ち、教えの深淵を理解するに至っていた。そして竜の霊験を以て人助けをしに地上を渡り歩く日々を続ける様になったのだ。
 子供とは思えぬ瀧の才知と精神は、皮肉な事だが勿論、乙奈の教育の賜物だ。
 「私は……ちゃんと育ててあげられなかったのかしら。」
 今までに何か落ち度があったのではないかと募る不安で、窓枠に添えた乙奈の手に思わず力が入る。
 「あの子が失った居場所の代わりには……なれなかったのかしら。」
 胸に迫り上げ蝕んでいく感情が、行き場を失ったまま吐き出されていった。
 「私、乙奈様が間違っていたなんて思いません。」
 独白を遮る凛とした声が、廊下に響いた。
 「此処にも居るじゃないですか。貴女が育ててきた者が。」
 「海波……。」
 「今の私があるのは乙奈様のお陰です。そしてそれを、誇りに思ってます。」
 深い青を湛えた瞳が、強い光をその眼差しに宿して真っ直ぐに向けられる。
 「……ほんのちょっと前まで、私に『お母さーん』って泣きついてた小さい子がねえ。」
 「は、はははは……それを言われると弱りますね。」
 過去の自分を指摘され照れる彼女は、年相応の少女の様相を取り戻していた。
 「違うわよって言っても聞かなくてね。貴女がしがみ付いてきて困っていたのに瀧は笑って見ているだけで……でも、楽しかった。」
 愛おしくも悲しげに目を細め、乙奈は思い出を懐かしんでいた。
 「瀧様は……人間に騙されているだけなんですよ。」
 「……」
 「しかし賢い方です。お教えすれば、気付いてくれますよ。」
 「……ええ。」
 「だから絶対に、あの頃を取り戻せますよ。」
 「……そうよね。有難う、海波……」
 今は城主を信じて待つ事。それだけで良い。
 これから時間を掛けていけば、今までの関係を築きなおす事が出来る筈なのだから。
 そう、思いを決めた矢先の事。
 「お、乙奈様!」
 息を荒げ、部下の一人が駆け込んできた。
 「どうしたのです?」
 名前を呼ばれ、答える乙奈。その雰囲気は既に統率者としての威厳に包まれていた。
 「じょ、城主様が……」
 「城主様が……人間を連れてお帰りに……」